白金・高輪の巻 2000年5月5日

1.  胸に抱えて

4月の後半から姫とずっともめていた。余裕がなくて、世界も狭くて、伝えたい言葉も見つからず、傷つけることでしか伝えられなかった。そして、傷つけた分だけ伝わらなかった。原因は互いの認識の甘さにあったのではないかという気もするが、それは今更言っても仕方のないことだし、甘さを認識したからといって時計の針を戻すことは出来ない。ただ全てを流して進むしかない。その「紛争」に一応のめどがついたのは、ゴールデンウィークも後半に入ろうかという頃だった。

そして、私たちは諍いに費やしていた時間を取り戻そうとでもするかのように出かけることにした。天気は上々。空の青はどこまでも高い。

渋谷で待ち合わせた。黄金週間のせいだろうか、やけに人であふれている。待ち合わせの時間よりも少し早く着いてしまったようだ。文庫本を鞄から取り出し読み出す。白い頁に陽射しが反射して眩しい。

姫が声をかけてきた。今日の姫は、ジーンズ姿。普段パンツルックを見慣れていないだけに、やけに新鮮に映る(可愛いのは当然である(笑))。とりあえず、ドリキャスの新サービスの宣伝をしていたコンパニオンのお姉さんたちが気になっていたのがばれなくてほっとした(笑)。

まずは、ぶらぶらと本屋へ。お互いにまず最初に漫画のところに行ってしまうあたりが私たちらしい(私が最初に店に入ってしまったからか(苦笑))。本を探す。『イエスタデイを歌って』と黒いチューリップシリーズの新刊が出ていたので手にする。『銭ゲバ』とか欲しいものは他にも色々とあったのだが、この先のことも考えて泣く泣く諦める(笑)。

文芸書の方に移動し、本を探すが、目当ての本は見つからず。どうやらまだ発売されていないらしい。それ以外の本も、あまり買いたいとまで思う本がなかったので日本酒の本を立ち読みする(笑)。その間に姫の方の買い物は済んだようだ。 渋谷の街をうろついて、他にも色々と買い物をしたり、ウインドーショッピングしたりした後は、信号故障が直って運転再開したばかり山手線に乗り一路品川へ。

2. 墓参り

品川からは、京浜急行に乗り換えて泉岳寺へ向かう。運良く都営線直通の電車が入ってきた。新型らしい白い車輌がプラットホームに入ってきた。それだけで何だか嬉しい。

泉岳寺駅から泉岳寺はすぐだ。泉岳寺に来たのは、高校受験のとき以来だから、実に15年ぶりになろうか。出口を出てすぐの坂からはもう寺の門が見える。参道の土産物屋は開いているが、縁日というわけではなさそうだ。とりあえず、門をくぐる。入ると右手に大石内蔵助良雄の銅像が。ブロンズ色も鮮やかな立派な銅像だ。昔の記憶がないので、きっと15年の間に出来たのだろう。銅像についての説明書きがあるかと思ったが見当たらなかった。

お賽銭を上げ、義士の冥福と幸せを祈ると墓参りをする。お年を召されたご夫婦らしき方々が多数来ておられた。あるいは、子孫にあたる方々だろうか。こうして墓前に立つと赤穂浪士の物語が事実だったのだとわかる。さすがに300年も前のものだけに傷みが激しい。義士の墓に至る参道は整備され始めたが、まだまだ資金などが足りないようだ。赤穂義士奉賛会で協力を募っていた。

姫は、ポケット地図を見ていた。どうやら、目的地は泉岳寺ではなく、清正公覚林寺の方らしい。そこで、泉岳寺を出て清正公へと向かうことにした。

3. 清正公へ

泉岳寺を出て伊皿子坂を上っていく。伊皿子とは聞きなれない名前なので来歴を探すとやはり港区教育委員会が立てたものがあった。伊皿子というのは、江戸時代にやってきた明国人だという。彼がこの地に住んだことからその名がついたという。

坂を越え、桜田通りに出て、目黒通りを清正公へと向かう。のぼりや露店の天幕が見えた。清正公をはさんで坂の上にも露天が続く。思わず心が浮き立ってくる。

清正公とは、戦国時代の武将加藤清正のことである。覚林寺は、加藤清正が慶長の役のおりにお連れした朝鮮国王子の子(日延上人)が1631年に開創し、加藤清正の守護仏とされる釈迦牟尼仏と加藤清正を祀った寺である。そのことから清正公と呼ばれ、広く知られている。清正公の本当の名前なんてこういうときでもないと分らないよなぁ。

二人で坂の方の露店を見て回る。お面屋さんを見つけた姫がお姉さんぽく「お面買ってあげようか」言う。露店のお面を見ながら「ヒゲガンダムがあったら」と私は笑いながら言う。仮面ライダーやウルトラマン、シルバー王女などはあったが「ヒゲ」はなかった。そんなに子どもに人気ないんか∀ガンダム(笑)。

小腹がすいてきたので、たこ焼きを買う。二人して、ふーふー言いながら食べる。ジャンボたこ焼きというだけあって蛸が大きい。

露店は、じゃがバターや焼きとうもろこし、焼き鳥、たこ焼き、あんず飴、たからつりetc.etc.といろいろあって見ているだけで楽しくなってくる。お祭りに来るのなんて随分と久しぶりだ。「晴れ」の気分とはこういうものか。心地よい気分に包まれる。

清正公の境内に入ると、参拝者の列が出来ていた。列に並び参拝し、お賽銭を上げて仏様にお祈りする。もちろん祈ったのは幸せですよ(笑)。あたりまえじゃないですか(笑)。

本堂に入れるようなので、そのまま入ってみる。檀家の方々からのお供物を見守るように加藤清正を描いたものだろうか武将を描いた掛け軸が2帖かかっていた。ご本尊にお参りすると菖蒲入りの勝守りを姫に買ってもらった。てへへ(照)。これで、私の運も上がるかな(笑)。

お御籤を引くと、今回は大吉であった。『陰陽相和取石則成金万事如意耳吉慶無古今』とあったが、具体的に書いてあることは、「叶い難し」とか「凶なり」とかあって、おいおい本当に大吉かと思ったが、これを機会になお一層精進せよということなのだろう。姫の方は教えてくれなかったので何ともいえないが、嬉しそうにしていたので、きっと大吉だったに違いない。

4. 白金の風

清正公を出ると目黒通りを目黒駅へと向かう。自然教育園の脇を抜け、首都高の高架を前にしたところで一休み。目黒駅はすぐそこ。

目黒駅について再び一休み。ウェンディーズで二人して買った漫画を読みふける(笑)。1冊読み終わったあたりでカラオケをすることに。カラオケは結局2時間半も熱唱してしまいました(笑)。

翌日も姫は出かけるというので、今日はここまで。姫の家の最寄まで送り、世田谷線に乗って私も帰宅した。世田谷線も新型車輌だったのでいい感じ。

いつもいろいろと企画してくれてありがとね。

こうして白金・高輪の旅は終わった。またしても惚気てばかりのような気がするが、それはきっと貴方の気のせいだ。いや、たぶん。おそらく。え、本当のところはどうなんだって。そういう野暮なことは聞くもんじゃないよ(笑)。そういうことを気にしていては大物にはなれないぞ(笑)。って、前回と同じ終わり方だって。それもきっと貴方の気のせいだ(笑)。

退室