ガンダム生みの親が一喝「アニメファンはバカばかり」
一九七九年の放送開始以来、製作されたテレビシリーズは十一作、劇場作品も十本を数える『機動戦士ガンダム』。「ガンプラ」と呼ばれるプラモデルから、DVD、ゲーム、テーマ曲のCDまで、関連市場は推定一千億円に膨らんだ。このガンダムの生みの親が、富野由悠季監督だ。
数あるガンダム作品の中でも、富野監督が手がけた、『ファーストガンダム』の人気は根強い。だが、放送当初は視聴率が伸びず、番組は途中で打ち切られた。それまでのロボットアニメは、番組スポンサーである玩具メーカーの宣伝色が強く、ガンダムのようなメッセージ性のある作品は違和感があったようだ。
「僕は、ロボットアニメというオブラートに包んで、本音を言っていたんです」
と富野監督は言う。
「言いたかったのは『大人ってどうしてこんなにバカになるんだろう』。ただそれだけ。今次大戦のことからもそれが気になって、『大人は敵だ』という視点で物語を作ってきました」
その後、再放送や劇場版の公開で人気がブレイク。バンダイが発売したプラモデルが社会的なブームを巻き起こしたが、「こっちが本気でやったものを使って商売する大人がいる。彼らの頭にあるのは、あくまで玩具としてのガンダム。ほんとに大人って、いつも同じだと実感しました」と監督は怒るのだ。
批判の矛先は、ガンダムファンにも向けられ、「アニメばっかり見ているとバカになる」と斬って捨てる。
だが、良くも悪くもこれだけの巨大市場を作ったのは富野氏の功績。
「何人もの監督がガンダムに関わっていますが、ファンの中では『ガンダム=富野』という意識が強い。アニメビジネスとして考えたとき、方向性やスタイルは違っても、宮崎監督と富野監督はアニメの歴史に残る二大巨匠だと思います」と、大人向けアニメ誌『日経キャラクターズ!』の中村均編集長は言う。
監督の懐も潤ったかと思いきや、「市場規模なんて自分には関係のない数字」と富野監督は言う。原作権を持たないため、商標権に付随する収入は入ってこない。当時はプロダクションが原作権を買い取るのが一般的だったからだ。
「おかげで数億は稼ぎ損なった……あっ、どうせなら五十億くらいって言っとこうか(笑)。それを実感して鬱になったときもあったんですよ。現在進行形で事態を見せられるんだから、そりゃ落ち込みます。自分もりっぱな愚民ですからね」
そう言って富野監督は笑う。虫プロで『鉄腕アトム』の演出を手がけて以来、この道四十余年。映像文化で何を発信するか、「そこにいかに『内実』をつぎ込むか」(富野氏)、つまりメッセージを盛り込むかを思索している。
現在、総監督として二十年前の『Zガンダム』を再構成した劇場三部作を製作中。『星を継ぐ者』(興収八・三億円)に続いて第二弾『恋人たち』もヒットと、富野神話は健在だ。
「ほんとは認めたくないけれど、作り手、演出家として宮崎さんには勝てない」と恐縮するが、現在のアニメ業界にはご立腹の様子。
「なんでこうもバカに作らせるのか。ガンダムに憧れてこの業界に入るスタッフに未来はない。政府も、アニメを産業だと錯覚しているようだけど、宮崎さんレベル人が二、三十人いて、はじめて産業と呼べるんですよ」
「総力ワイド特集カリスマの仮面を剥ぐ」『週刊文春』2006年1月5・12日新年特大号(48巻1号) 51p.