名古屋の巻 1999年10月22日〜10月24日

3. 復活のsusie

翌日は、危うく遅刻するところであったが、無事に朝からの仕事を終えることが出来た。

その後のパーティーでたらふく寿司を食うと、会場を後にした。

地下鉄に乗る。各駅で「○○へ行かれる方はこちらでお降り下さい」というアナウンスがまるでバスのようだ。東京の地下鉄では、私の知っている限り、西新宿と竹橋、三越前くらいだ。横浜や大阪の地下鉄では聞いたことがない。伏見まで戻ったが、ただホテルに戻ってもつまらないので、街の明かりに誘われるようにして広小路通沿いに栄の方を散策してみることにする。

ふと見ると、近代的なビルの横にやけに重厚な古めかしいビルを見つける。さくら銀行の名古屋支店だ。イオニア式の6本の柱が並ぶ堂々としたその姿は美しい。隣には、住友銀行名古屋支店が工事中であった。両行の合併が決まった今、隣り合った支店はどうなるのだろうと、よその会社のことながら心配になる。その先を歩いていくと中央信託銀行、大和生命と同様に古めかしいビルが並ぶ。今風の建物と違い存在感が非常にある。道を挟んで隣にある東海銀行本店内の貨幣資料室に行ってみたかったのだが、銀行休業日は閉室ということで建物を眺めただけで先を急ぐ。

栄の交差点に近づくと、大きなギターの音が響いてきた。音のする方を見てみるとストリートライブをしているのがわかった。人気があるらしく、何人もの女の子が彼の周りを取り囲んで聞き入っていた。よく見ると、彼だけではない。地下道の入口などにも同じようにライブをしている人たちがいた。

地下道を見つけたので降りてみる。時間が時間なので、店は殆ど閉まっていた。人通りもまばらだ。仕方がないので適当に出口を出る。金色に輝くものがビルの隙間から見えたので、うろうろとしていると、道の真中に緑が溢れていた。これが有名な久屋大通り公園のようだ。信号を渡って園内に入る。昼間に祭りでもあったのだろうか、あるいは明日あるのだろうか、テントや横断幕などが置いてあった。

4. テレビ塔の攻防

園内を歩いて暫くすると、入ったことを後悔した。周りはカップルと外国人(イラン人?)ばかりなのだ。しかもカップルがいちゃいちゃしている。こちらの視線に気づいた途端にさらにいちゃいちゃし始める彼らが憎らしい(苦笑)。「自分は仕事で彼女と会えないというのに、こいつら…」などと敵意にも似た感覚に泣きそうになって空を見上げると、先ほどビルの隙間から見えたものが。そう、それは名古屋のシンボルテレビ塔だったのだ。

せっかくなので入ってみる。高いところが苦手なのに行ったのは、けっして受付のお姉さんが美人だったからではない(爆)。日本で最初に建てられたというテレビ塔を見るのも話の種になっていいか、ということにしておいてくれ。男同士の約束だ(笑)。

早速チケットを買うとエレベーターに乗る。エレベーターガールも実は可愛かったりするが、話を先に進めよう。3階で1度降り、展望室行きの別のエレベーターに乗る。途中からガラスを通して周りが見える。高いところへと動いていくのを見るのはどちらかというと苦手なので、くらくらとしてくる。だが、ここでびびっていては、展望室へは向かえない。エレベーターガールと2人きりの空間で醜態はさらせない。と思っている間にエレベーターは展望室に辿り着いた。

展望室は意外と狭い。以前に横浜のマリンタワーに昇ったときは、強風で激しく揺れたので、そのようなことがないようにと願いつつ、窓に近づく。窓に白線で何かが書いてある。見ると、その方向に何が見えるかということらしい。だが、外はすっかり夜の帳に包まれており、夜景しか見えなかった。昼間来たら夜景が見られないのだから、それはそれでよかったのだが。

不穏な空気を感じて、その方向に視線を移すとまたしてもカップルがいちゃいちゃと。自分がする分には気にならないのだが(苦笑)、他人にされてこれほど腹の立つ行為はない(爆)。むかつく気持ちを抑えて、展望テラスへと出る。更にカップルがいちゃいちゃとしていた(泣)。やるせなくて彼女にメールを思わず送ってしまった(が、後でそのメールは戻ってきてしまい余計泣きそうになった)。早く家に帰りたいなどと思い始める。

5. 時間よ、止まれ

いい加減腐っていても仕方ないので、エレベータガールのお姉さんをナンパしようと瞬間思ったが、後が怖いのでやめておく。そして私は、テレビ塔を後にした。

そのままダンボールハウスの村を通り越し、外から見られればいいだろうくらいの軽い気持ちで名古屋城を見に行くことにする。歩いて行ってもよかったのだが、だいぶと夜も遅くなってきたので、久屋大通駅から名城線に乗った。次の市役所駅で降りる。案内図に沿って外に出てみると、出口が門の形になっているではないか。思わず笑ってしまった。そこまでやることはないだろう。だが、しかし、それは中途半端なものではないことに気が付いた。帝冠様式の名古屋市役所の存在である。暗闇の中に聳え立つ和風の屋根。それも高層ビルの上にだ。私は思わずアメコミで勘違いされている日本の都市の姿を思い浮かべてしまった。恐るべし名古屋市。県庁よりも立派な市役所。まあ、これは地方都市にありがちなのでそれほどでもないが(笑)。だが、あのインパクトは話のネタとしてはもってこいだ(笑)。

テレビ塔での嫌〜んな気分も何のその。ゴジラが踏み潰さないかな、などと妖しいことを妄想しつつ名古屋城を目指す。「尾張名古屋は城でもつ」と言われた名城、名古屋城である。濠が空濠になっていて石がごろごろとしているのを見ると時代の移り変わりを感じる。正門の方を目指して歩いていくが、うっそうとした緑に覆われて城内が見えない。時折、隙間からライトアップされた県体育館が見えるだけだ。仕方がないので、来た道を戻り、国立名古屋病院を正面に見ながら左折。てくてくと歩いていく。が、行けども行けども緑ばかり。城が見えるのか不安になってくる。名城公園の所で左折し、更に歩いていく。どれだけ歩いただろうか、気がつくと左手に水を湛えた外濠が。そして、その先には天守閣があるではないか。城内の林の背を越えて照らし出された真っ白な天守閣は、幻想的な雰囲気さえ漂う。やけに金のしゃちほこが眩しく見える。隅櫓が見えた。どうやらここで1周近く歩いたことになる。丸の内駅まで行くのもあれなので、濠沿いに歩いていき、巾下橋を渡る。そして私は、そのまま浅間町駅から鶴舞線に乗って伏見駅に戻った。

6. バーバレラはセクシーダイナマイツ

駅の出口を出ると、さっそく昨日見つけた例のバーへ。英吉利西屋(えげれすや)と書かれた扉を開けると地下への階段が。地下1階にある店のドアを開ける。カウンターと円卓が幾つかあるだけのこじんまりした感じだが、狭さは感じない。常連と思しき男性とバーテンのお兄さんが笑いながら話をしている。どうやらスツールに座っている彼は、話の内容からすると新聞記者らしい。コートを脱ぐとカウンターのスツールに腰掛けた。

ショットバーというよりは、アイリッシュパブ、あるいはイングリッシュパブのようだ。コルトレーンだろうか、曲名はわからないが、静かに流れるジャズの音色が心地よい。と、先ほどまで談笑していたバーテンが私にメニューを差し出した。品揃えは、ウイスキーやバーボンが品揃えの中心だ。私は芳醇な香りの酒はあまり好みではないのでジンのブィフィータをストレートで頼む。過去に酒で失敗したことがあるせいだが、今もって苦手なのだ。そのせいで随分損をしている気もするが仕方ない。

ブィフィータがそっと私の前に出された。呑む前に匂いを嗅ぐ。どうも悪い癖だ。そして、おもむろに一口。きりりとした呑口に頬が緩む。隣の新聞記者は、連れの女性と話を始めた。車上荒らしにあった話をしている。訛りの感じからすると地元の人ではないだろうか。ブルーチーズを齧りながらゆっくりとジンを味わう。

半分も過ぎた頃だろうか、バーテンが話しかけてきた。

「出張ですか」

「そんなもんだよ」

「美味しそうに呑まれますね」

「久しぶりに気持ちよく呑ませてもらっているよ」

そう私が言うとバーテンは満足そうな笑みを浮かべた。

もう少し呑みたい気もしたが、既にパーティーでだいぶと呑んでいたのと、街中を歩き回っていたこともあって、ストレート2杯で店を出た。雲一つない夜空に蒼い月が輝いていた。名古屋に来ることがあったら、もう1度寄りたいものだ。

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