History of ZAKU

【悲劇】

ジオン軍の「ザク」は、今日、連邦軍のRGM系や、伝説的でさえある「ガンダム」と並んで、MSの代名詞ともいうべきMSである。開戦当初から、ジオン各軍の主力として活躍し、各地の戦場で連邦軍を苦しめた。

そのザクに代わる主力汎用機の開発は遅れていた。Fタイプ自体の完成度が非常に高く、トータルバランスの良い、優秀な機体であったせいもあって、技術者たちの思考がそこから離れられなかったためである(その実例が先に述べた06F2や06Rである)。そのためザクを越える汎用MSをなかなか作りだせず、ザク開発時と同様の産みの苦しみをZEONIC社は再び味わうことになる。

そんな中、ビーム兵器を汎用MSに本格的に標準装備させる事が提案されたのは、ジオン国防省の情報局が、「連邦軍がMSを開発中であり、しかもそのMSはビーム兵器を標準装備するらしい」という情報をキャッチしてからである。

MS-06Rの量産計画が廃案となったためにZEONIC社では、未だ次期主力汎用機開発計画を進めていた。だが、開発の遅れに業を煮やしたジオン国防省の兵器開発局は、ZEONIC社からのOEM(相手先ブランド供給生産)を利用して、陸戦用MSを開発したZIMMAD社に、同社のMS-09を宇宙戦用に改修するよう命じようとしていた。

そのため、次期主力汎用機の開発に多大なる費用を投じていたZIONIC社では、06R1による損失と威信を回復するために、社内秘で、MS-06R1Aを基に製作され、新型機用(一説によるとMS-11用と言われているが、真偽のほどは定かではない)ジェネレーターを装備した試作機 (後にMS-06R-P2と呼称)をもって、軍に急遽コンペティションを開かせようとしたのである(本来であれば、MS-09の宇宙戦用機が本決まりになるところをZEONIC社は自社よりの将官たちから圧力をかけさせ無理やりコンペに持ち込もうとしたのだ)。

機体のキャパシティでは、冷却効率上の問題を残していたため、MS-06R-P2は再び設計が変更され、Rタイプは新たにMS-06R2として生まれ変わった。ビーム兵器の標準装備化は諦めたものの[1]、メインスラスターおよびサブスラスターの再度の出力増強、燃料搭載量の大幅な増加、装甲材の超高張力鋼からルナチタニウムへの変更により、外見は「ザクU」でも、実際にはほとんど別物といってもよいMSが完成したのである。

機動性等ではMS-09の宇宙戦用機MS-09Rなど足元にも及ばない高性能を示したが、やはり、操作性等の点で今一歩遅れをとっていたため、軍部はコスト面、生産性等に難を発見するや否や直ちにこの機体を却下した。

最終的に06R2は試作機4機のみの製作に終わった。ベテランパイロットのRタイプを乗機とする旨の上申は数多く、この機体も却下扱いとなるや、社内用機を1機残して、全て申請中のパイロットに廻された[2]

79年7月、すでに連邦軍がエネルギーCAP (Energy CAPACIT0R) 方式を応用したMS用携行ビーム兵器を開発していたたことが諜報員により明らかになった。

ジオン宇宙軍の主力はMS-09Rに移行し始めたばかりであった。しかし、連邦にMSが誕生し、それがビーム兵器を持つ以上、MS-09Rの重装甲が、ほぼ無用の長物と化してしまったのである。ジオンの各兵器メーカーは、必死になってMS用の携行ビーム兵器の開発にやっきになった。

ことに、再び威信を潰された形になったZEONIC社は連邦のRX-78「ガンダム」を超えるMSの開発を迫られた。そして、ペズン計画(後述)に携わっていたエリオット・レム、セイ・ウエノ等をペズンから本国に呼び戻したのである。彼らは社内に残されていたMS-06R2の社内研究用機を使い、当時のZEONIC社の持てる技術と資金のほぼ全てを投入して、連邦軍のMS(特にRX-78系)に匹敵する起動力を持つ機構試作用の機体、MS-06R3を造り上げたのである。ジェネレーターの出力を大幅に上げ、これにより開発の遅れていたビームライフルや、ビームサーベル等の携行ビーム兵器へのエネルギー供給も可能になった。そして、この機体で得られたデータを基に、全く新しく設計されたものがYMS-14(ゲルググ) である。

オデッサ戦、ジャブロー戦、ソロモン戦と戦局が進むにつれて、鬼神の如きガンダムの働き(実際は、パイロットのアムロ・レイ少尉の働きだが)に より、ジオンのただでさえ少なくなったベテランパイロットたちは更に失われていった。

ジオン公国は、同年9月に戦時国家総動員法を改正し、学徒動員を始めた。これまで兵役が卒業まで猶予されていた19歳以上の文科系の学生を徴兵し始めたのである。更に、本土決戦を想定して国民義勇兵法を制定し[3] 、妊婦、乳幼児童、障害者、病人以外のあらゆる国民を地位階層に関係なく兵士として戦争に駆り立てようとした。だが、全ては遅すぎたのだ。YMS-14の量産型、MS-14系が戦場に投入されるころには、ジオンに残されたパイロットは上記の様な者たちがほとんどになっていた。実に3ヵ月という短期間で前線へ送りだされていった彼らは、連邦軍のRX-78系に匹敵する新型機を与えられながらも、その性能を持て余し、有効に発揮できぬまま宇宙の闇に散っていったのである。

[註]
[1]
06R2は、最終的にビーム兵器を標準装備とすることはできなかった。が、ビーム・サーベルやビーム・ガン程度であれば、短時間ならば使用することができた。
[2]
MS-06R2を乗機としたのは、【真紅の稲妻】ジョニー・ライデン少佐、【黒犬獣】ギャビー・ハザード中佐、【蒼太子】ロバート・ギリアム大佐 (階級はいずれも06R2拝領時)の3名。いずれともジオンのエースパイロット十傑に名を連ねる者たちであった。
[3]
実際にこの国民義勇兵法が公布されることはなく、15歳以上の少年たちによる少年志願兵、予備役からの義勇兵を積極的に募ったにとどまった。
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