かたち百景 機動戦士ガンダム
クールな造形 人間的な温かみ
筋骨隆々とでも表現すべきがっしりとした体形、胴体以外はほぼ白色、右手に銃を持つ。八王子市夢美術館(東京)の「安彦良和原画展」(18日まで)に、「機動戦士ガンダム」の模型が展示されている。1979年放映のテレビアニメに登場したロボットで、30-40代を中心に多くの人々の心をつかんできた。
ガンダムは「モビルスーツ」と呼ばれる戦闘型ロボットであり、内気な主人公アムロが乗り込んで操縦する。ロボット自身が知能を持つ「鉄腕アトム」タイプでもなく、外部から人間が操縦する「鉄人28号」タイプでもない。ロボット特有のクールな魅力に加え、人間の肉体が持つ温かみをどこか感じさせる点が人気を集めたのだろう。
ガンダムのメカデザインを担当したのは大河原邦男氏。そこに総監督の富野喜幸(現・由悠季)氏、キャラクターデザイン担当の安彦氏らの意見が加わり、ガンダムの斬新なデザインは生まれた。8月27日に開かれた大河原氏らとの対談で、安彦氏は「当時は『(赤・白・青の)ロボット三原色』などといわれたが、あえて白のウエートを大きくした」と振り返った。
「子どもと一緒にテレビを見るお母さんたちに、生理的な嫌悪感を抱かせないようなデザインを心がけていた」と大河原氏。それを安彦氏のダイナミックかつ柔らかなデザインで表現することで、格好良さと親しみやすさを併せ持つロボットが生まれた。
「ほかの安彦作品にもいえるが、『ガンダム』は敵役も魅力的に描かれている」と八王子市夢美術館学芸員の浅沼塁氏は指摘する。敵側であるジオン公国軍の青年将校シャアは、主人公に匹敵する存在感を持つ。ロボットも同様。ジオン公国軍の「ザク」や「ドム」は今でも人気が高い。
最初の「ガンダム」の視聴率は低かったという。しかし、「ガンプラ」と呼ばれるモビルスーツをモデルとしたプラモデルの登場で注目を集め、アニメ自体も評価された。デザインの魅力が、名作アニメの水先案内人となったのは興味深い。 (稔)
(日本経済新聞2006年9月3日(日)朝刊27面)